特別対談Part.2 山川浩正さん×菰田泰隆弁護士×横須賀輝尚

特別対談Part.2 山川浩正さん×菰田泰隆弁護士×横須賀輝尚

「困難に立ち向かう」

横須賀:続いて、「困難に立ち向かう」についてのお話を伺っていきます。

山川さんが1型糖尿病を発症されたことは、当時ニュースにもなりました。私はずっとTHE BOOMのファンでしたが、ファンとしても、山川さんのご病気は大きな困難が起きたように感じました。

山川:解散と病気の発表の順番が逆になってしまったので、病気がきっかけの解散なのではと思われりもしました。ですが、解散は1型糖尿病を発症するより少し前に決まっていました。

病気がわかった時は、さすがにショックでしたね。ただ、解散コンサートのステージに立てないということになったら、僕は最後のステージに立てない。次のチャンスはないわけですから。退院が3月でツアーが秋からだったので、半年くらいでステージに立てる体にしなければならなかった。実は落ち込んでいる暇がそんなになかったんです。「最後のステージに立つ」という目標のために、病気を受け入れるしかありませんでした。

それから、同じ病気の子供たちが手紙をくれた。「頑張ってください。」と。1型糖尿病を逆に世の中に知らせてくださいと。解散した後も音楽を続けるかはその時まだ決めかねていましたが、その時に1-GATAのバンドのメンバーと出会って。解散したあとは、ブームとは違う音楽活動をしよう。それを通して1型糖尿病を世間に知らせよう、ということを自分の使命みたいに思ったんです。勝手にですけど。

横須賀:最初はやっぱりショックだったとおっしゃっていました。

山川:でも、性格なんでしょうね。ちょっと「美味しいな」と思った(笑)病気のことを利用できるなと思いましたし、してもいいと思ったんですよ。批判する人も出てくるでしょうが、それは音楽をやってもやらなくても同じです。それも1型糖尿病という病気を知るいいきっかけになると、良い方に考えました。

横須賀:菰田さんにとって、大変なことというのはどんなことですか?

菰田:しんどいなと思うのは、やっぱりお金に換えられないとき。特に、両親が親権で闘う時ですね。子供を手元に置けるかどうかは、絶対にお金には換えられない。でも、闘っても絶対にどちらかは負けるわけです。負けた方は、月に1回とかしか子供とは会えなくなります。そこで負けた依頼者を見るのがすごくしんどいですね。

僕たちの仕事は結果を出すことももちろん大事ですが、お客さんが満足して終われるかどうか、精神的に落としどころをつけられるかどうかが一番大事です。依頼者に勝ち目がない場合には、そこを作るためにもまずやりましょう、と言うときはあります。

今は子供が小さくて何もわからないとしても、なぜ自分の親が離婚したのか、両親が自分のことをどう思っていたのかを知りたいと思う日がきっと来ます。親権を裁判所で争って、そこで子供に対する思いをきっちり主張していたら、審判書にお父さんの気持ちが全て書き込まれて、裁判所の記録として残るんです。

それをいつか子供が見られる日がきたら、自分はお父さんに見放されたわけじゃない、お父さんは子供と一緒にいたかったんだ、というのがわかる。そうすると、やっぱり何か変わってくると思うんですね。そこを目指す時はあります。

横須賀:弁護士は仕事柄、精神的に背負うものが重たいと思いますが、どうやって「もう一度頑張ろう」というところに持っていきますか?

菰田:うまくいかなかった依頼者と徹底的に話します。肩を並べて闘ってきた2人なので、「最後結果は残らなくても、得るものはあった」という共通理解を作ってから帰っていただくようにしています。そしたら僕自身も少しは救われるので。

横須賀:山川さんは、これまでに挫折のようなものはありましたか?

山川:特に挫折を感じた経験というのは、あまり思い当たりませんね。

横須賀:一般的に見るとヘビーな状況も山川さんにとってはそうは感じないものだとしたら、どのように物事の良い面を見るようにされているのでしょうか。

山川:病気のことでいうと、自分の膵臓が自動でやっていることを急にマニュアルで操作するというのは、普通の人はできないことなんですよ。でもマニュアルで操作することで、血糖値をより高い精度でコントロールできるんです。まるで神の手ですよね(笑)。そう考えると、「よし、やってやろう」と思えるんです。こんなふうに、この病気と仲良く楽しむというか。僕みたいな人も中にはいます。

菰田:なかなかいないですよね。神の手という発想はなかなかできない(笑)

自分にしかできない、好きなことをやろう

横須賀:今回は「技術を極める・困難に立ち向かう」をテーマにお2人にお話を伺いました。最後に、頑張って勉強していこう、困難なことにも立ち向かおうとしている人にメッセージをお願いします。

菰田:さきほどの山川さんのお話にもありましたが、僕も僕にしかできないことだけをやろうかなと。弁護士になって3年間くらいは、僕がやれることは全部やろうかなと思っていました。でもそれで浅くなるくらいなら、諦めることは諦めて、専門家の仲間をたくさん作ってみんなでクオリティを高めていけば、それがお客さんにとっても一番ためになる。僕は僕が生きる道を深めていけばいいのかなと。

もし経営方針や普段の仕事の仕方で迷っている士業の先生がいたら、何のために士業としてやっているのか、「自分が提供できるサービスが、お客さんにとってどういうものなら自分が本能的に嬉しいのか」という、自分の好みみたいなところを追求していかれると、違った楽しさがあるのではと思います。

山川:好きなことは大変じゃないです。寝る時間がないとか、一日中働いているとか。でも好きなことをやっているのなら苦痛じゃないし、突き詰めていけばそれが結果につながると思っています。

音楽以外のことも、好きだと言っている間に、全て仕事につながっていきました。アウトドアの雑誌の仕事が来たり、料理人としての仕事が増えたり。とにかく好きなことを突き詰めていけば、結果的にそれが仕事になったりお金につながっていく。忙しくなっても、好きなことなら全然苦にならずに人生を楽しめるんじゃないかと思います。

横須賀:お二人とも、貴重なお話をありがとうございました。

(了)