社員が私利のために行った行為について、会社は表見代理を主張できるか

社員が私利のために行った行為について、会社は表見代理を主張できるか

◯事案の概要

ある社員が自己の利益のために会社名を名乗って発注し、材料を私的に奪取した。この件について、会社は無権代理行為として相手方に対して追認を拒絶できるか。また、相手方は表見代理を主張する余地はあるか。

◯相談内容

X社の仕入先Y社に、X社の社員A(役職・仕入権限なし)が自己の利益のためにX社として発注し、材料は私的に奪取しました。社員Aは、この一連発注の後に退職しています。

X社はY社から発注していない商品の請求書が届いたため、この事態を知りました。

①民法113条1項の無権代理行為としてX社はY社に対して追認を拒絶することで足りるか

◯菰田弁護士の回答

上記で表見代理が成立するかどうかによりますが、表見代理が成立しないのであれば追認拒絶だけで足りますね。

「X社はY社より使用者責任(715条)を問われうるか」についてですが、この事情を元にすれば、「自分のために購入」である以上、この売買契約はA個人とY社との売買契約であり、そのA個人の代金支払い義務をX社が代わりに履行してあげようとしていたというだけの話になります。

つまり、Y社はA個人に対して代金支払い請求ができるだけであって、AはX社の代理人として動いたわけではないので、X社に代金支払い義務はないという主張もあり得るかなと思います。

また、使用者責任は難しいでしょうね。使用者責任は、A個人の行為が不法行為でなくてはなりません。しかし、A個人は売買契約を締結しただけです。

(もちろん、お金を払わないという部分はありますが、それは単に売買契約の債務不履行というだけであり、不法行為ではありません)ですので、使用者責任の前提を欠くでしょうね。

※本サイトに掲載された相談事例は、実際に会員様から寄せられたご相談について回答したものを簡略化して掲載しております。
ご入会されると、毎月のニュースレターでより詳しい解説をご覧いただくことが可能です。