事業場ごとに異なる変形労働時間制を採用している会社で、事業場間の配置転換があった場合の賃金清算方法について

事業場ごとに異なる変形労働時間制を採用している会社で、事業場間の配置転換があった場合の賃金清算方法について

2017年7月6日

◯事案の概要
事業場ごとに異なる変形労働時間制を採用している会社で、事業場間の配置転換があった場合の賃金清算方法について(社労士からの相談)

◯相談内容
A支店とB支店では、それぞれ1年単位の変形労働時間制の労使協定を締結しており、支店によってそれぞれ勤務カレンダーも異なります。
クライアントが、A支店で勤務していた従業員を、年度途中でB支店に異動させました。このときの賃金の清算については、労働基準法第32条4の2に基づいて以下のように解釈し、対応して問題ないでしょうかという相談です。

・この年の賃金の清算は、各支店の変形労働時間制に従ってそれぞれ行う
・割増賃金率は1.25とする

◯事案の解説(菰田弁護士による回答)

この問題においては、労基法第32条の4の2の文言解釈がポイントとなります。

労働基準法第32条の4の2
使用者が、対象期間中の前条の規定により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間あたり四十時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第三十三条または第三十六条第一項の規定により延長し、または休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第三十七条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。

この条文は、「途中退職者・途中採用者」に関する清算を定めた条文であると説明されることが多いです。そうなると、今回のクライアントは同じ会社の中で、他の事業場に異動させただけですので、この条文の対象者にはならないのではないかとも思われます。
しかし実際に条文を見ると、「対象期間中の前条の規定により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者」という文言が使われております。また、条文中の「対象期間」について今回のケースに当てはめて解釈した場合、この条文の主語は「実際に労働した期間が1年より短い労働者」となります。
加えて労基法第32条の4は、事業場ごとに労使協定で変形労働時間制を定めると規定しており、会社によって複数の種類の変形労働時間制が併存することを前提とした制度設計になっております。
したがって、変形労働時間制の清算は同一制度ごとに行うしか方法がなく、配置転換で他の種類の変形労働時間制となった者は、労基法第32条の4の2が適用され、同条に基づいて賃金清算を行うこととなります。

そのため、今回の相談事例では、
・各支店の変形労働時間制に従って異動時点と年度末に賃金清算を行う
・割増賃金率は1.25とする

この解釈と対応で問題はないものと回答しました。

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